カードの迷宮、デザイナーズノート
2016/04/30
※この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2015年12月3日の記事として書かれました。
そもそもデザイナーズノートに何を書くものなのか、どのようなものなのか、正直、あまり理解していないかもしれません。今回ここでは、デザイナーズノート、ということでカードの迷宮がどういった過程を経て作られたかを書いていこうと思います。ボードゲーム、カードゲームに興味のある人、ボードゲーム、カードゲームをデザインしたい人の参考になれば幸いです。
・まずはここから始まった

このメモは、カードの迷宮の基礎的アイディアが書かれたメモの中で最も古いものです。私はゲームのアイディアが浮かぶととにかく書く!ということを大事にしています。どんなに素晴らしいアイディアでも忘れてしまってはどうしようもないです。このメモのように紙の形で残すかパソコン上のメモ帳に記録するかを出来るだけ早くする。そして浮かんだアイディアを現実化するために、必要なルールを(単にアイディアの核心部だけでなく)できるだけ詳細に書きとめることも大事です。単なるアイディアの核心だけでは、インスピレーションが去った後に見返してみても意味不明になってしまうかもしれないのです。
このメモは私の直筆ですが、私は字を丁寧にゆっくり書いても下手だけど、早く書くとなおさら汚くなってしまいます。せめて自分だけは読める程度には綺麗に書きたいものです。
さて、このメモに書かれている内容を書き起こしてみましょう。
ル・トゥルック改 カードのどうくつ
手番アクション・・・
turn 場札をめくる
draw 引く
play 置く
4 5 6 7 8 9
⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ 得点札 伏せられている
金は1~5程度
最初は「5」~「9」に置けるが
一旦「6」に置くと「6」以上しか置けなくなる。
一旦「7」に置くと「7」以上しか置けなくなる。
同点タイブレイクは、先置き有利。
先置きは得点札に少しかさねて置く。
得点はメモに記録。
一定得点でゲームオーバーフラグ
得点の高い方の勝ち
トルトラレル式で3人、4人も可能
ル・トゥルックとは・・・・ル・トゥルックとは私が草場純さんから教えてもらった2人対戦ブラフトランプゲームです。
詳細は、
http://boardgameland.blog31.fc2.com/blog-entry-970.html
を参照されたし。
ル・トゥルックは2人対戦ゲームで、お互い1枚1枚札を出し合い、そのぶつかった札と札の戦いで勝てれば一本取ったことになるのです。そして二本取れればそのラウンドに勝利、となります。
このル・トゥルックは、私はとても好きなトランプゲームで、このようなシンプルで相手の腹を探り合うような、そしてブラフなゲームを作りたいと前々から思っていました。
このル・トゥルックの影響は大きく、このメモの段階から「後戻りできない迷宮」というアイディアの基本が出来ていたことが分かります。
ル・トゥルックでは、得点カード(迷宮カード)はなく、お互いに1枚の札を出す、あるいは降りる(勝負を捨てる)ということができ、1枚のカードと1枚のカードが戦います。そのカードだけでなく、そういった一つ一つの戦いが3回行われます。
ここです!この、お互いが札を1枚1枚出し合い、それを3回繰り返す。こここそカードの迷宮の原点です。
もちろんル・トゥルックとカードの迷宮は違う部分もあれば同じ部分もあります。比較してみましょう。
ル・トゥルック:段々奥へ
カードの迷宮:段々奥へ
ル・トゥルック:迷宮カードが無い
カードの迷宮:迷宮カードがある
ル・トゥルック:1段階に1枚
カードの迷宮:1段階に任意の枚数
ル・トゥルック:勝てばダブリングキューブで示された得点
カードの迷宮:階層で勝てば財宝(得点)。得点が多い方がラウンドを取る
ル・トゥルックとカードの迷宮は共通点がありますが、そのまんまではないです。奥に進むという部分を維持しつつ多くの部分で手を加えて別ゲームになるように、(カードの迷宮が)トランプで再現できないように工夫されています。
このメモの段階では、勝利条件、終了条件があまり明瞭ではありませんでした。
「一定得点でゲームオーバーフラグ 得点の高い方の勝ち」
このように書かれています。当初は、迷宮カードに書かれていた数値が累積していってそれが一定以上溜まればその人の勝ちでゲームの決着が付く、となってました。
このゲームのタイトル(コードネーム)ですが、「ル・トゥルック改」となってます。奥へ奥へと行く様子が洞窟探検のようで、「ル・トゥルック改」改め「カードの洞窟」というタイトルが付け直されています。
もちろん、結局のところ、「カードの洞窟」という案もボツになります。と言いますのは、「トレカの洞窟」という名のお店があることが分かったからです。でもカードの洞窟がボツになって良かったですね。カードの迷宮というタイトルを今ではとても気に入ってます。
このメモを忠実になぞると、得点カード(迷宮カード)がだんだん大きくなるように、そのように書かれています。しかし実際にはこの得点カードはよく混ぜられるので毎回同じパターンにならないように改良が加えられました。
・カードの洞窟7月11日案

できあがった叩き台に手を加えていつの段階で説明書を書くべきでしょう?私の場合はどんな初期でもまずは文章で表現します。この作業を後回しにはしません。いずれはキチンと書かねばならないのです。面倒がらずに最初の方でやってしまった方が後々楽ですし、ルールに対する例外規則などもこの文面に書かれるので、テストプレイの最中にどんなことが起こってもマニュアルに沿って対応することになります。
さて、この7月11日案ですが、タイトルが「カードの洞窟」になっていますが、赤ボールペンで「洞窟探検」「カードの迷宮」と書かれています。この段階でようやくキチンとしたタイトルの案が登場します。
この案では、プレイヤーが出来るアクションは3つ(!)ありました。
A:探検カードを引く(補充)
B:探検カードをプレイする
C:洞窟カードをめくる
さらに、この7月11日案には走り書きで、
「洞窟一番手ボーナス:探検ポイントをプラス1上乗せする」
と書かれています。この、一番手ボーナスは重要なルールですが当初案は「2点」ではなく「1点」であり、さらに言うならこの11日案が書かれた段階では一番手ボーナスはルール化されてなかったんですね。
また、ゲーム終了条件も現状とは異なり「60点先取」となってました。この部分はル・トゥルックの影響下にあった部分です。
今から思えば完成度の低い7月11日案ですがこの案からそのまま引き継がれた部分は少なくなく、例えば、2・3人プレイ時は個人戦、4人プレイ時はチーム戦というのはこの段階から既に存在していました。
・7月11日案でテストプレイをしてみて

そしてこの7月11日案に沿って、ひろむちゃん、ゆっきーとテストプレイが行われました。
http://gardengames.blog40.fc2.com/blog-entry-828.html
(このブログ記事の「M」というのがカードの迷宮のことです)
ガーデンゲームズのテストプレイはなかなか厳しいと思います。一応私がテストプレイのチームのリーダー(のつもり)ですが、リーダーとか上下関係とは、そんなもんは全然無く、とにかくテストプレイしてダメな部分に関してはどんどん意見が出ます。その意見をまとめたメモが上の写真です。
上の写真に書かれた主要なポイントを書き起こします。
Cアクション(注釈:洞窟カードをめくる)にメリットがない
先行者にメリットがない?
Bアクション(注釈:探検カードプレイ)Cアクションを統合する
迷宮
このテストプレイを経て手番アクションが3種類から2種類に減ることになりました。またゲームタイトルがようやく定まったのがこのときのテストプレイでした。
・7月27日案

直前のテストプレイ(11日案)を経て書かれたのがこの27日案です。この27日案は実はかなり完成度の高いバージョンです。現行案と比べて異なる部分がとても少ないのです。もちろんタイトルもキチンと「カードの迷宮」になっています。
この27日案では一番手ボーナスは「1点」になっています。この部分は後のテストプレイの結果、「2点」に修正されます。一番手ボーナスが1点ではうま味が少ないというテストプレイヤーの意見でした。
・ゲームのアートワーク

アートワークはガーデンゲームズの弱点なのですが、それはアートワークを私自身でやっているせいでしょう。
(例外:アムステルダムの運河・新版。これのアートワークは長谷川登鯉氏)
今回のカードの迷宮もやはり私がアートワークを担いました。上の写真は入稿原稿を描く前の
「こんなイメージで良いかなぁ」
という下書きです。この下書きを結構忠実に踏襲しました。
完成品については下記URLをご覧ください。
http://gardengames.blog40.fc2.com/blog-entry-899.html
・8月10日案(最終案?)

プレイ時間計測が行われました。内容的には最終案とほぼ同一のものがこの8月10日案です。ここにさらに微妙な修正が加えられます。
喧嘩読みももちろん外部にお願いしました。
これで完璧!ではないのです。あとで、ルールの記述の荒い部分が発見され、
http://gardengames.blog40.fc2.com/blog-entry-900.html
このように補足されるのです。この補足があれば、もうかなり完成度が高いと思われます。
このカードの迷宮のために、「7月11日案」と「7月27日案」と「8月10日案」の3つのバージョンのルールが書かれました。カードの迷宮はそれでも比較的短時間に仕上がったゲームだと思います。3つしかバージョンがないと言うのは当初案の「7月11日案」が出来が良かったためでしょう。
思いつき(アイディア)をメモに残し、早い段階から説明書を書き、テストプレイを繰り返し、その都度新バージョンの説明書を書く。こういった手順を繰り返すのが私にとってのゲーム創作なのです。文章を書く、説明書を書くという割合が高い創作の方法だと思います。
もっと色々書き込みがあるのかと思ってました。